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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年09月23日 (Sat)
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2010年02月13日 (Sat)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第十五夜:虜囚


黒い水面に時折水滴が滴り落ち、描き出された波紋が広がって行く。一つの輪が広がり、溶け消えた所でもう一つ。緩慢に落ちる雫は、女の白い腕から荒れた指先を伝い、まるで墨を落としたように底知れぬ漆黒の底へと吸い込まれ、拡散して行く。
歳の頃は二十二、三、であろうか。それなりに愛嬌のある顔立ちと言えるが、生気を失い、四肢を投げ出した屍となっては何処か酷く作り物めいて見える。
至近距離から受けた暴虐が彼女の半身を今は夜目に墨色としか見えぬもので染め上げ、いくつもの無残な孔を穿たれた様すら、現実味を持たない。
その傍らに佇み、暫し見下ろしていた人影は、面白くもなさげに肩を竦めて振り向いた。

「フレグランスの居場所がわかったよ、アブソルート」

月明かりにさえ浮かび上がる程の鮮やかな緋色の着物を纏った女は、口唇を歪めるようにして笑った。

「あの島サ────ほら、いつだか招待状を送って来た輩がいただろう。
……誰と一緒だったと思う?傑作よ」

女の言葉に、暗闇に光る三対の眼窩が細められた───彼女と対峙している者の姿は建物の影に隠れただ蟠る影のように黒い。その影の中でぐちゅり、と粘着質な音が響いた。骨と組織を無理矢理に組み替えるような水音が立つ度、影は膨張して行く。

女は影の変化に構う様子もなく、くつりとくぐもった笑みを漏らした。
その握り締めた掌の内で、青白い蝶が苦しげに翅を震わせている───紅い爪に引っ掻かれ、押し潰されてはもがくように触覚を伸ばし、肢を蠢かせる蝶の鱗粉が、儚く宙に散った。

「ふふ……、ふ……私の可愛い玩具と、ね。仲良くお友達ごっこの最中」

鋭い爪の先が蝶の胴を縫い止めるように貫く。
僅かに、男の苦痛の声が響いた。彼女と対峙する影のものではない……女の手の内に囚われた蝶が押し殺した悲鳴を漏らしている。

「ベラ」

アブソルート、と呼ばれた人影は一歩前へ進み出───月明かりにその異形を晒した。

「やはりお前は悪趣味だ」

青黒い甲殻と大ぶりの鱗に包まれた巨躯を翻して女に背を向ける。
言い捨てた言葉は笑みを含んでいた。




「兄様、、、兄様、、、!」

必死に己を呼ぶ声が聴こえる───血を分けた妹でありながら、神の血筋を守る為許嫁として育てられた娘が追い縋る気配を感じながら、囚われの男は成す術も無く苦痛に苛まれていた。

「かわいらしいこと」

男を捕らえた牢獄の主がくすくすと哂った。耳障りであるが同時に酷く蠱惑的な響きに心が掻き毟られる。
艶やかに流れる乱れ髪が男の体を這い、冷たい唇が触れる。それだけで意識と理性の全てを手放してしまいそうに甘い痺れが襲った。

「いいだろう、麗しい兄妹愛に免じて会わせてやろう。
────私は、慈悲深いからね。……そうだろう?」

だからお前、私の言う事をよくお聞き───男を支配する『神』はそう言って男の耳元に何事か囁いた。



『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第十六夜:屍人
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自慢の逸品
余りのかわゆさに飾らずにはいられない
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