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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年12月15日 (Fri)
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2010年01月20日 (Wed)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第十二夜:呪詛


女は形の良い紅唇を吊り上げるようにして哂っていた。
油断無く此方に獲物を向ける兵士達の背後に立つ姿は、飼犬の手綱を握る主さながらであり、何処か傍観者めいてもいる。戦場には不釣合いな出で立ちが一層そう見せているのやも知れない。

身の丈を越す鞭に変じた己の腕を素早く振りかざし、兵士の身に二連の打撃を与える。同時に懐に飛び込んで来る別の兵士の槍を受け流そうと身を避けた。

「フレグランス!」

注意を促す声は千仭のものか。短い叫びは、目の前にした男の背後に隠れもう一つの影が槍を繰り出す姿を捉える暇を与えはしたが、それを避ける程の余裕はない。

「クッ……」

クラッシャーの奥で奥歯を噛み締めながら体重を乗せた突撃を受け止め、纏めて二人を払い除けた。
甲殻の合間を正確に狙い、波状攻撃を仕掛けてくる彼らの動きは系統だった戦闘訓練を積んだ者の動きであり、これまで遺跡の中で相手して来た生物達のそれとは明らかに違う。
何処かの軍隊であると言う噂は真のようだった。

然し彼らの目的に思いを馳せる余裕等ありはしない。
穿たれた傷から零れ落ちる体液に体温を奪われ、妙に肌寒かった。
ただ、目の前で揺れる指揮官らしき女───レディ・ボーンズの血のように赤いドレスが視界にちらつき、怪人は闇雲に身をよじって兵士の槍をかわし、左腕の鉤爪で捕まえ、へし折っては回し蹴って彼我の距離を詰めようと前へ進んだ。




─────その日、暗雲は重くたちこめて山野を分厚く覆っていた。
日中だと云うのに陽が地上に届く事は無く、まるで薄暮の時が続いているかのようで、麓の村人達は不吉げに身を寄せ合っていた。
視線の先には鬱蒼と茂る山林、その奥に続く細い山道は行き交う人も殆ど居ない為か手入れを怠ればすぐに野の草に覆われてしまう。

「地主様んとこの若様───もう随分良くねぇって話だねえ」

「じゃあ、もうじき……わたしゃ憶えてるよ、前ン時もそうだった。
あそこの家の方がお亡くなりの時にはいつだってこんな───」

「シィッ、滅多な事言うもんじゃねぇ」

野良仕事の合間にひそひそと言葉を交し合う女達を嗜めた若い農夫は、一斉に反撃に遭う。

「でもお前、これは普通じゃないよ」

「そうだよ、きっとまた下井丸んとこで死人が出るに違いないんだ!」

「若様はずっと寝たきりって話じゃないか、あの家にしちゃあ長生きな方さ」

その口振りには畏れと共に何処か蔑むような色が滲んだように男には聴こえた。事実、女は「呪われてるのさ」と吐き出すように続けた。
農夫は眉間に皺を寄せてか細い山道を見詰めた後、頭を振り、再び身を屈めて作業を続けた。
女達は飽きもせず、かの家の一族の噂話に花を咲かせている。
若様と呼ばれる当主の妹が行方知れずになっただとか、何代も前にも同じような事があっただとか───あそこは悪いものが憑いている、だとか。
まだ三十には届かぬだろう若者の唇からは深い溜息が零れる。彼が世話をする畑も、彼らが住まう土地も、下井丸家の地所であり、彼らは代々かの家に仕える小作農であった。
雑草を引き抜いて、畦道に放る。

「若様は俺と同い年だ、何が長生きなもんか」

酷い話じゃないか。
低く呟く農夫の周囲に、青白く輝く蝶がひらひらと儚く舞っていた。




戦いを終えた後、遺跡外に戻ったフレグランスは皆の輪から抜け出して一人物思いに沈んでいた。
顔に蝶の意匠がある女怪───ベラ。
さなぎの問いが示す者は彼女以外に無い、そうであるとすれば、ベラの齎したと言う蝶神とは本当に彼女の家を守り栄えさせるものなのか。
楽観的に出来ている筈のフレグランスの思考をもってしても、それが善意で与えられたもののようには思えなかった。

『あれは悪趣味だ』

フレグランスを江戸の街へ送り込んだ張本人───怪人達を束ねるアブソルートと言う凶悪な男を以ってそう云わしめた女の力が彼女を蝕んでいるのだとしたら……あの耳の異形はその発露のほんの一端であるとしたなら。
彼女が「神様」と呼ぶ者の正体を告げて良いものかどうか、フレグランスは決心出来ずに居た。





『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第十三夜:蝶
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自慢の逸品
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