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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年09月23日 (Sat)
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2010年01月20日 (Wed)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第十一夜:立ちはだかる者


「あの、、、フレグランスさん」

さなぎに声を掛けられて、歩き出そうとしかけた脚を止めた。
昼の煮炊きに使用した焚き火は既に消されており、もう何時でも出立出来る準備が整っている。先程まで大木の枝上に陣取って何やら臍を曲げていたらしいスパルヴィエロも、仲間達の説得に応じてようやく地面の上。
暖めなおした甘酒に舌鼓を打つ仲間の姿を横目に話し難げに睫毛を伏せ、暫し口篭っていた少女が意を決したように顔を上げた。両の大きな瞳に小首を傾げたフレグランスの顔が映り込んでいる。

「フレグランスさんにはお友達がいらっしゃる、と前にお話してらっしゃいましたよね。
ご同類と言うか、、、」

千仭や景元と話していたのが耳に入っていたのだろう。
お友達、と呼ぶにはフレグランスの同類───同じく人間達に未確認生命体と呼ばれる存在は彼に友好的ではなかった。否、嘗ては仲間として遇された事もあっ たのだが、彼らの所業の悉くに反発し、妨害をするようになったフレグランスを彼らは裏切り者と呼び、次第に敵対するようになったのだ。
それでもフレグランスにとって同種の生物である彼らは「敵」と呼ぶにはしのびなく、解り合えぬ事が寂しくも思える。異種である筈の人々に囲まれてその親切さに触れれば触れる程に。

「うん」

何処か縋るような眼差しに飲まれたように、ただ肯定の頷きを返した怪人は次の瞬間耳を疑った。彼女の口から零れた更なる問いは彼の想定の外にあったものだった。

「その方々の中に、顔に蝶のような意匠のある女の方はいらっしゃるでしょうか」

思わず鋭く息を呑む。
忘れようにも忘れられる筈もない女の───人と同じに彼らに性があるとすれば、それに近い種である事は間違い無い───姿が脳裏に浮かぶ。



─────「どうしてそうお前は強情なんだい、フレグランス。アブソルートはすっかり怒って、手がつけられない」

防波堤の突端に座り込み、吹き付ける風に打たれながら、黒い海にきらきらと映り込む街の灯りを独り眺めていた怪人に投げ掛けられた背後からの声は、「お前の所為だよ」と付け足してひそりと哂う。
フレグランスの鼻梁を擽る馥郁たる百合の香りが、声の主の撒き散らす悪意に混じり酷い腐敗臭のように感じられた。

「人間を苛める事に何の意味があるって言うんだい。
僕にはわからないよ。アブソルートはどうして人を殺すんだ……どうしてそれが楽しいって言うんだい」

膝を抱え込むようにして振り向かずに応じるフレグランスの声は闇夜に深く沈んでいる。
遠く響く船の汽笛が被さり、語尾が打ち寄せる波音に砕かれた。散々に傷め付けられた銃創は未だ塞がり切って居らず、熱を帯びてじくじくと痛む。
哂い声は、まるでその傷口にすり込んで痛みを増そうとしているかのように、耳障りだった。

「そうかい、お前はまだわかっていないようだね」

不意に百合の香りが色濃く漂う。足音もなく距離を詰めた相手の気配にフレグランスが反応する間もなく、頭を掴まれる。たおやかですらある女の指が、尋常ではない力でフレグランスの巨体を突き飛ばした。

「───…!」

次の瞬間には真っ黒な水の中。水面から届く僅かな光にぼんやりと輝く膨大な量の泡が視界を埋め尽くし、流れて行く。咄嗟にもがき、身体を反転させて浮上しようとするが、方向を見失いかけて手足はみっともなく水を掻いた。
塩辛い海水が気管に入り込み、息苦しさに悶える。ようやく鉤爪の先が防波堤のコンクリートに引っかかり、水上に顔を出した怪人を見下ろして居た者、それは

「っ、……ベラ!」

「良い格好だね、フレグランス。
私はね、そうやってもがいてもがいて、昏い水の底へ成す術も無く沈んで行く人間達を見るのが好きなのさ。
アブソルートもそう、ただ人を殺すのが楽しい……何故なら私達はそう生まれ付いているからね」

『未確認生命体B』。人が彼女を指して呼んだ記号を哂いながら、己の名をベラ、と嘯いた怪人は顔の中央に蝶が翅を広げたような豪奢な装飾と鮮やかな色彩を持っていた。
真っ黒な空を背負う異形の周囲には淡い光を放つ蝶が儚く群れている。その光に照らし出された女怪は海に落ちた怪人の姿を見下してくつり、と哂った。

「お前だって私達と同じだ」

言い捨てて、手にした白い百合の花を無造作に海へと投げ入れる。フレグランスの目の前に落ちたそれは、見る間に生気を失い、しぼむように枯れ果てた。
反論しようと再び顔を上げた時には、女怪の姿も、飛び回っていた蝶達の姿も、彼の目の前からは消え失せていた。



────ベラが、さなぎとどう関わっているのか、それを聞き出すだけの時間と余裕が、フレグランスには残されていなかった。
森の手前で、武装した兵士達と遺跡には場違いな赤いドレスで着飾った女性が道を塞いでいたのだ。

「・・・お客さんみたいよ」
「ベルクレア第14隊、ただちに応戦だッ!!」

男達の後ろでにんまりと笑う、女の顔。
それがベラの残した哂い声の残滓と重なり、酷く、目障りだった。



『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第十二夜:呪詛
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自慢の逸品
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