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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2024年11月22日 (Fri)
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2010年02月03日 (Wed)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第十四夜:困惑



フレグランス「いたーだきまーっす」

夕暮れの押し迫る頃、野営地にさなぎと琥珀のこしらえた料理の香りを含んだ湯気が立つ。
橙とも紫とも付かぬ空───それが偽物だと知っていたとしても、やはり空にしか見えない───が徐々にその色合いを深め、夜に沈んで行く中、焚き火の灯りが食卓を囲む仲間達の顔を照らす光景を見回してから、フレグランスは我先にと手を合わせた。
お行儀等気にせずすぐに掻き込むように食べて、二杯目をさなぎにおねだりする───それがいつもの事。美味である事も無論理由の一つだが、皆の口に合うか と心持ちいつも心配そうに眉を下げているさなぎに一刻も早く「大丈夫だよ、美味しいよ」と言葉と態度で示したくて自然とそうなってしまう。

だがその日、お代わりをねだるべき相手は割烹着を自分の座席に残して慌てて何処かへ駆け去ってしまった。

フレグランス「ふぁれ……さなぎちゃんは?」

口元に垂れる煮汁をごしごしと手の甲で拭いながら見回すフレグランスに、斜め下から睨み上げる視線が突き刺さる。

「ふーちゃん、めぇっ!だめなのよ、おぎょうぎわるいの」

腰に手を当てたポフコが、視線を合わせようと懸命に爪先立っている。
まるでその場に居ない少女に代わり母親役演じるように、「しょうがないのね」と精一杯怒った顔を作りながら、ポシェットからハンケチを取り出して「拭きなさい」とばかりに差し出して来るのを見て、フレグランスは思わず笑みを漏らした。

ポフコに指導されるまま食事を終え、食器と、拝借したハンケチを近くの水場で濯いでいる間にさなぎはふらりと野営地へ戻った。何処か遠い眼差しは何事か思い詰めているようであり、思わず近寄ろうと屈んでいた身を起こした。

「さなぎちゃ……」

呼びかけ終える前に、さなぎは足早に駆けて近寄って来た。
フレグランスと、景元の前に辿り着くと開口一番、

「またお魚を釣ってきて下さい、、、!」

真顔で切り出した。「魚?」───我ながら間抜けな声が出たものである。反芻して問えば、こくこくと頷きながら、遺跡の外れに儲けられた探索者達の連絡用掲示板を指差す。

「あそこに、皆さんの投票が掲示されているでしょう。
私、皆さんが景元さんや千仭さんに付けているこめんと、と言うものを読んだのです。
それで気付いたのです、私、お二人に満足にお魚のお食事をお出し出来ていないのです」

保存用に加工された肉類等と違い、魚はなかなか日持ちしない。だから遺跡の中で魚を調理しようと思えば、現地調達は欠かせないだろう。思わず景元の顔を見てから、フレグランスは頷いた。
料理をやる気になっているのなら、それは良い事だ───少なくとも蝶神とやらや、神様と名乗り彼女の一族の上に君臨する怪人の事等に考えを巡らせているよりは。



フレグランス「でもさあ、結構さあ、釣れないんだよねえ」

来たは良いが怪人は早々に飽いていた。
元々じっとしている事が出来ない。そわそわと体が揺れてしまう。黙っていられない。あれこれと煩く話し掛けては返事がなければ構ってとばかりにじゃれ付く───おおよそ釣りになど向いて居ないのだ。
辛抱強く釣り糸を垂れる景元の隣で、ぴくりともしない釣竿を放り出してフレグランスは地面に寝そべり、ばたばたと足を動かしては転がり、空を見上げてはまた転がって戻りを繰り返している。

「ねえかげもっちゃん、もう釣れた?まだ?もっと魚いる所行く?」

五分おきに場所変えを提案しては却下され、また一人遊びに戻る繰り返しの最中───視界の隅を、青白い光が掠めた。
何気なしに目を向けた先に、水面に洗われる木の葉の如く不安定な軌道を描いて飛ぶ蝶の群が漂っていた。
先日小隊とそれを率いるドレスの女と戦った森の奥、ゆらゆらと光を放つそれはさなぎの耳元で時折揺れる翅よりもより大ぶりで、光沢のある美しい色合いが煌く華やかさがある。
物珍しい大群にフレグランスは思わず立ち上がり、水辺を迂回して歩き出した。

「かげもっちゃん、魚任せた!」

「おい、お主………」

景元の返答は耳に届かない。
既に逸りだした好奇心に導かれるままに、音を立てぬ足取りで石造りの回廊を抜け、草原の草叢へ身を隠している。
蝶達を驚かせぬよう回り込んで肉薄するには、先日手に入れた歩行雑草の香りを身に纏うべきか、と香水瓶を取り出しかけて己の鼻腔を擽るマナの香りにフレグランスは息を呑んだ。

呪詛と毒を練り合わせ獲物を誘き寄せる甘露をたっぷりと振り掛けたような───悪意の香り。
飛び交う蝶の群からは、良く知る女の匂いがした。

「ベラ……!」

思わず捕まえる事も忘れて呆然と立ち尽くす────その目の前で蝶達は暗闇に消えて行った。



『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第十五夜:虜囚
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