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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年12月15日 (Fri)
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2010年01月06日 (Wed)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第十夜:大晦日



雪は静寂を連れて来るものだ。
賑やかな音楽が鳴り響き、人々の嬌声やクラクションに溢れる街を見下ろしていた一年前の冬の夜 も、原色の点滅を繰り返すネオンサインに照らされた白い結晶が降り落ちる度、それらの音が遠ざかって行くように感じられ、独り膝を抱えた怪人は飽きもせず 空が産み落とす花弁を見上げていた。
音が遠退く度に却って孤独は和らぎ、天との対話だけが其処にあるように感じられたのだ。



「どうしてなんだろう、ねえ、スパっち」

くつくつと音を立てて甘酒を煮込んでいる鍋の横で、スパルヴィエロが蜜柑を剥くそばからひと房、またひと房と無遠慮に失敬して口に運びながらフレグランスは首を傾げた。

「今年は賑やかなのに寂しくないって不思議」

疑問符を浮かべながら、湯気を立てる鍋をかき回している少女を眺める。
あれこれと料理の手伝いをしようと纏わり付くポフコに笑顔で応じるさなぎの表情に翳りは見えない。暫く何やら思い詰めたような顔をしていた彼女は、つい先日の聖夜、千仭との逢瀬から戻った時嬉しげに頬を染めていた。
───やはりクリスマスはデートをすると幸せになれるものなんだ、と怪人は大いに満足しながら、やはり不思議だ、と首を傾げた。

「ねえ?今までこんな気持ちになった事ないよ。
皆が笑ってて、僕はそれを見てるだけで、それだけでどうして僕も楽しいんだろう」

酒の香りのする小さな友人に問いかけながら、何か答えが返る前に、また一つ蜜柑の房を口に運ぶ。
噛み締めた果肉から溢れる甘い蜜と鼻腔を擽る爽やかな香りに喉が鳴った。

「ほお。ま、そいはそん内自分でわかるんでないか」

横取りされた蜜柑の代わりになのか、手酌で酒を注ぎながらスパルヴィエロがのんびりとした言葉を寄越した。
しし、と笑う少年の顔を眺めながら、やはりわからないとフレグランスは首を傾げる。


「出来たよ」「さあ、いただきましょう」


甘酒をこさえる為に長い時間鍋に貼り付いていたさなぎと琥珀が皆を呼ぶ。
生姜を加えた何とも言えぬ麹の甘い香りが、周囲に立ち込めた湯気に混じり冬空に拡散して行くのが、まるで己の胸の内の温もりが周囲に優しく広がって行くようで、フレグランスの異形の口元は僅かに引き上げられた。

それは人で言えば笑顔、のようなものだったのかも知れない。
良く回る口はすっかり静まり、無言で噛み締めるように甘酒を味わっていた。────己の隣で、さなぎがポフコ用の特製のババロアを作り出すまでは。


フレグランス「ちょっ、何それ、さなぎちゃん、何?ポフっ子だけ?僕のは?僕の分は?」


勿論用意していますよ、と宥められながら、やはり静寂とは程遠い怪人の歳は賑やかに暮れて行く。
天から降り落ちる雪にも隔てられる事のないざわめきの中で。


『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』



次回──第十一夜:立ちはだかる者
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自慢の逸品
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