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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年12月15日 (Fri)
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2009年12月24日 (Thu)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第八夜:互いの実力


「手合わせ、ですか?」

「そう、練習試合するんだよ、僕ら皆で!お互いの力をちゃんと知っておく必要がるし、
──それに、ほら、この辺りじゃあ人を襲って金品を奪って行く奴らもいるんだろう、
それにいつどんな強敵に当たるかもわからないよ、あの銀ピカの缶みたいなのも言ってたじゃない、
平和に過ごせるのはここまでだ、って」

食事の支度の手を止めて聞き入る少女の顔の横で、白い蝶の羽がさわりと揺れる。
不安げな眼差しは、アルミ・カーンの残した言葉に因るものなのか、人狩りに襲われた夜のポフコの泣き顔が思い出されるが故のものか、判別し難かった。ただ、伏せられた睫毛の奥で黒目がちな瞳が戸惑いの色を浮かべている事は、怪人にも悟る事が出来た。
武人である景元などに稽古を持ちかければ話は早かっただろう。しかしさなぎのような少女は人と争うようには出来ていない。……だからこそ、「皆で」手合わせを行う為にフレグランスは彼女を真っ先に説得しに来たのだ。


彼女の返答は翌日まで考えさせて欲しい、と言うものだった。
それで良い、と怪人は頷いた。昨日、ポフコの香気から作り出したオーラ──香水瓶の事を彼はそう呼んでいる──の力を得た己の変身を見れば、彼女の心もまた定まるのではないかと考えたからだ。
キラキラと輝くハート型の小瓶を翳しながら叫ぶ。

「今日は最初っからクライマックスさ!」

直後、大きく上がった爆煙の中から現れた姿は

フレグランス「ポッフーーーーーーーーーーーー!!!

彼としても、少々予想外のものであったが。

フレグランス「ポフっ?」

随分と縮んだ体は、後ろに控えたポフコと比べればまだ上背があったが、己の呼び出した紅蛇や歩行雑草と比べればやはり小ぢんまりとして見える。長いままの両腕を振り回し、飛び跳ねるようにして戦場を駆けながら、いやそれでも、とフレグランスは頭の隅で思考した。
正確に毒針を打ち込み、偽妖精と呼ばれる蟲の打ち出す魔力の塊を受け止め、衝撃に耐えては横薙ぎに腕を振るって叩き落す。元の姿とは大きくバランスの変わった体躯と言えども、動かし方は本能が教えてくれた。
そして何より、東京と呼ばれる都市での戦いにおいての変身と大きく異なる点が一つ。
大技を放つ前、ほんの一瞬姿を変えるだけであった筈のモードチェンジが、かなりの長さで続いている。ポフコの香気を取り込んで以来身の内から溢れ出る魔力がそれを支えているのだろうか、との考えに至る頃には全ての偽妖精は地に倒れ伏しいていた。

「…フー…ちゃ…ん…?」

じっと己の手を見下ろしていた小さな怪人は、口をあんぐりと開いたポフコの声と其々に戦いを終えて無事を確認し合う仲間達の気配に顔を上げた。

「これは、凄い。凄いよ、ポフっ子!
ははっ、見てよこれ!おーい、かげもっちゃーん!」

褒めて褒めて、とでも言うように仲間の侍───恐らく彼と一番距離を取りたがっている筈の人物だが、フレグランスはお構いなしだった───の元へとぴょんぴょんと飛び跳ねる姿には緊張感と言うものが全く欠け落ちている。
ポフコの鳴き声と言えばこれ、と勘違いでもしているのか、ポッフー、と大きな声で叫びながら黒紋付の背中に飛び付いた。

「こんな力を集めて行けたなら、アブソルートと戦う事になってもきっと勝てるに違いない」

今更ながら、彼がこの島での目標を得た瞬間だった。


『さなぎの迷いは、彼女の口から語られるだろう。』


「とうとうこれで何人目だい」
「この界隈に限ったってもう四人は殺されてるよ」
「役人は一体何をやってやがるんでぇ」

遠巻きに眺める町人達のざわめきに、遺体の傍で検分を行っていた同心は顔を顰めた。
旗本屋敷に大店、本所、貧乏長屋に遊郭、はては寺と、場所も人も選ばぬ殺しがこの所日を置かずに繰り返され、人心は大いに乱れている。
被害者となった者達には共通項等存在せず、町奉行所としても管轄を外れた武家屋敷や寺社での殺しを含む事にほとほと頭を痛めていた。
おまけに先日から北町の定町廻りを勤めていた同心が一人、行方が知れない。

「やっぱり、あれなんじゃねぇのかねえ、ほれ、本町の辺りで金子をばら撒いていたあの…」
「怪盗仏麗倶蘭西かぃ」
「そうそう!そいつが現れた日に、代官屋敷で殺しがあったってぇ言うじゃねぇか!」
「じゃあその金子ってぇのは、仏麗倶蘭西が仏さんを殺して奪った金ってぇわけかい」

無責任な噂を繰り広げる人々を同心は睨み付けた。
彼の同僚もまた、同様に殺されたのではないかと脳裏に告げる声がある。───持ち回りが異なる為に奉行所で言葉を交わした事はないが、やっとうの稽古の際には、彼の冴える剣筋に敵う者はそうそう居なかった。その、彼が。
湧き上がる不安の渦に飲み込まれぬよう、同心は咳払いをして町人達を追うように腕を払った。

「ええぃ、無駄口を叩いておらずに仕事をせぬか!」
「おお、おっかねぇおっかねぇ」

追い払われた町人達は、背を丸めて長屋に散って行く。
散々に言い立ててはいたが、それは連日の殺しを他人事のように扱おうとの意識が働いているに過ぎない。己の暮らす眼と鼻の先での事件に、長屋の住人達も落ち着きが無く、我が身に降りかかるのではないかとの懸念に震えているのだ。

「こんな日に商売なんざしてられっか、てぇんだ。おい八っつぁん、呑みに行こうじゃないか」

男は幼馴染の肩を抱き、歩き出そうとした所で腕を振り解かれ、つんのめった。
たたらを踏んで振り返れば、日ごろ人の良い微笑を浮かべている筈の友人は無表情に冷たく首を振り、踵を返してぶらりと立ち去ってしまった。

「な、なんでぇ、なんでぇ…!」

幼馴染らしからぬ振る舞いに男は地団太を踏んだ。
先程も話の輪には加わらず、じっとりと暗い眼で夜鷹の遺体のある辺りを眺めていたのが思い出される。
常とは違う態度に戸惑いもあったが、それにも勝る憤りに、横倒しにして並べられていた木桶を男は蹴飛ばした。

ゴツリ、と重い音と共に木桶が僅かに転がり、そしてそれは姿を現した───地面を染める唐紅。夥しい血に染まった、男の幼馴染の

「八っつぁん……!?」

苦悶に歪んだ、死に顔が。



────「相変わらず、この時代で遊んでいたのかい、アブソルート」

数刻前、「八」と呼ばれた筈の男は、その言葉に振り返った。
否、見る間にその顔にはひび割れが走り、肌は青黒く染まって行く。ゴキリと首を捻りながら、すっかり形を変えた体の何処かから大口径の歪な銃を取り出した男は、目の前の相手にその銃口を突きつけた。

「お前こそ、随分とあの一族に執心が続いているじゃないか」

異形の怪人に相対するのは、やや細身で、何処か女性を思わせるしなやかな体躯ではあるが同じ異形。
────向けられた武器を恐れる様子もなく、くつくつと笑うその手元には大輪の百合が握られている。

「そうだねぇ、私はお前と違って短絡的じゃない。
長い時間の中でもがいて、苦しんで、そして破滅して行く様を眺めていたいのさ。」

「ふん。言ってくれる」

アブソルート、と呼ばれた男は女の手元に咲く花の香りに惹かれるように現れた蝶を鼻白んだように眺めた後、銃を下ろした。



『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第九夜:聖夜
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自慢の逸品
余りのかわゆさに飾らずにはいられない
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