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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年09月23日 (Sat)
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2009年12月24日 (Thu)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第九夜:聖夜


────「クリスマスじゃないか!」

怪人は唐突に叫びを上げた。鉤爪の生えた両の手を広げて、まるで天啓を得たかのように。
己が提案した手合わせの最中である。

フレグランス自身は一足先に既に戦いの場から退いていた。
身内の中でも格段に強靭な体と優れた武芸を身に付けた景元、千仭のコンビとさなぎの絶え間ない攻撃は、頭数では勝っている筈の此方を追い詰めるに充分であった。
背後に庇ったポフコに攻撃が及ばぬよう身を以って立ちはだかる事で、怪人は大きな制約を受けた。
元来トリッキーな動きで場を掻き乱し、毒針と四肢を痺れさせる殴打を与える事で自身を有利に運ぶ怪人の戦い方と、真正面から切り結ぶ彼らのそれとでは壁としての機能は比ぶるまでもない。
今後立ちはだかる障害によっては組み合わせを変えるべきか、と真面目に考えを巡らせていたのはほんの数分、すぐに集中力の途切れた彼の脳裏に飛来したもの は遺跡に入ってからの日数に照らし合わせた暦とそれに結び付いた故郷───2009年の東京を、そう呼べるのであれば───を彩るイルミネーションの色彩 であった。

練習試合の応援すると言う名目の元、手合わせを肴に酒盛りを開始していた琥珀とスパルヴィエロが疑問符を浮かべた顔を向けるのも無理はない。

「そうだ、クリスマスだよ、クリスマスじゃないか、どうしよう、クリスマスが今年もやって来た、んだよ!」

半ばで歌と思わしき妙な節回しが混じったのは、聞きかじった事のあるCMのフレーズであろう。
そわそわとうろつき出したフレグランスを宥めるように琥珀が差し出した杯を受け取り、ぐびりと一気に呷って、怪人は唸った。

「クリスマスは、若者はデートをしなくちゃいけないんだ。
僕、聞いた事あるんだ、間違いないよ、デートしないと大変なんだ、デートできない奴は悲惨なんだよ!
だってテレビでそう言ってるもん、一人で過ごす奴は地獄行きなんだって」

無論それらは大仰に表現され、自虐的な笑い話としてネタにされる事。しかし少なくとも、彼の知る狭い知識の中の東京ではクリスマスに一人きりでいる者には悲惨な末路が待っている……と言う事になっている。

「ああどうしよう、スパっちとポフっ子は子供だからいいとして、こはくんもパパだからいいとして、かげもっちゃんと、ちひろんと、さなぎちゃんはどうなっちゃうの!?
ふたりはともかく、……ともかくって言い方はないけど、さなぎちゃんは駄目だよ、女の子なんだよ、ねえ?」

そう思うでしょ、と同意を求められた山の主が何と答えたのか、定かではない。それを知る前に、今まさに雌雄を決した彼らの元へとフレグランスは駆け出していた。



「デート?デートとは何だ」

「だから、クリスマスなんだよ、しなくちゃいけないんだって!
しないと不幸が訪れて、泣きながら出っ歯の人に電話したりするハメになるんだって!」

「貴様が何を言っているのかさっぱりわからん……」

怪訝な顔で要領を得ぬ話に首を傾げている同心の反応が芳しくない事に、怪人は頭を抱えてしまっている。余りに困り果てた様子を見れば当の景元は深刻な事なのかと色を失して、相棒の男とその脇でおずおずと何かを言いたげにしている少女の顔とを見比べる。

「そのような…大事、なのか」

「そうだよ!何度も言ってるじゃない、かげもっちゃんはさなぎちゃんを不幸にしたりしないよね!?」

食い付くように見上げる長身の怪物に袂を握られて、景元は頷かざるを得なかった。
無論、フレグランスの言葉の意味のほぼ全てを理解せぬままに。



「それで結局」

何なのだ、これは、と問うた景元の目の前には二人のさなぎが並んでいた。
裾にレースと刺繍のあしらわれた紬の着物にストールを巻き付けて隣を気にして居るさなぎと、常とは違うローウェストのワンピースに身を包み、大股を開いてふんぞり返っているさなぎと。
双方共に「クリスマスのデート」に相応しい格好に着飾っている。

「選んで欲しいんだってさ。
どっちとデートするか。……片方は本物で、片方は、フレグランスが擬態してる」

これもまたデート、とやらの為なのだろうか、異人の着物に身を包んだ相棒が口にした言葉に、景元は「一目瞭然ではないか」と喉奥からこみ上げる言葉を飲み下すのに腐心している。
こくこくと無言で頷く洋装のさなぎは、親指を立てたり、顎に手を当てたり、と無表情のままくるくると姿勢を変えて何やらアピールをしているらしく、和装のさなぎはそれを見て頬を赤らめながらぱたぱたと手を振ってやめさせようとしている。

「何の茶番か、と訊いている」

好い加減青筋を立て始めた相棒と、困惑の余り両手で顔を覆ってしまったさなぎ───本物の───とを見比べた千仭は、さっさと己が選ぶ事にした。


「いやあ、どうなる事かと思ったよ!
これでさなぎちゃんは安心だ、なあ!かげもっちゃん!
それにしてもデートってやつは楽しいね、かげもっちゃん!!」

かくして、選ばれなかった方───表情に乏しい分挙動の不審さが目立つ偽のさなぎと行動を共にせざるを得なくなった景元が幾度目かの溜息を漏らした頃。当の偽者、フレグランスは上機嫌であった。
デートと言うものが具体的に何をすべきものなのかはわからないのだが、とにかく男女は共に過ごすべし、とマスメディアから垂れ流される教えに従っていれば不幸は訪れないのだ。

先程まで川べりに腰を下ろし、昼間からほぼ日が暮れかかるまでの間を二人は釣りに費やした。
決して景元の趣味であるとか怪人にとっての逢引きが魚釣りに結び付いているわけではない。全ては「デート」とは言って見たものの無計画の権化であるフレグランスが思い付きで言い出し、景元を巻き込んだ事がたまたまそれであった、と言うだけの事。
然しそれなりに釣果はあった。縄で束ねた魚を上機嫌でぶんぶんと振り回しながら大股で歩く少女の後を追いながら、また一つ、景元は嘆息を漏らした。

「魚が痛む」

注意されればぴたりと腕振りは止む。数歩進んではまた景気良く振り上げ、ハ、として持ち直す。
この生き物は見た目のおぞましさや異能を差し引いて見ればただの頑是無い子供そのものであった。

「ねえ、かげもっちゃん、かげもっちゃん!
僕はさ、今夜の事を一生忘れないと思うんだ」

はらはらと振り落ちる雪の花弁を見上げるフレグランスの鼻先と頬は林檎のように赤い。
元の姿が固い殻に覆われた異形であっても、この姿が擬態に過ぎぬとしても、今は冷えた白い肌の下に赤い血が流れているようにしか見えない。瞼に乗った雪の 結晶を瞬いて落とした少女の横顔に相変わらず何の表情も浮かんでは居なかったが、景元には怪人がこの上なく幸せそうに見えた。

「だって贈り物を貰うなんて初めてなんだ、素敵だね、クリスマスって」

怪人は前を向いてまた歩き出してしまったので、「へへ」と照れくさそうに漏らした笑い声だけがその場に残った。



「あっ僕もね、贈り物を考えててね、さなぎちゃんと共同制作なんだけどね、なんだと思う?
ヒントはねえ、さっき僕が買った小石で作るって事とお、あとね、ね、がついて、つ、がついてけ、が付くもので」

「黙って歩かんか」

ふらふらとあっちへ行ってはこっちへ行って、八の字にくねくねと曲がった小さな足跡が、降り積もり出した雪の上に残る。
その後を真っ直ぐに踏み締めながらやかましい怪人を連れて景元は仲間の待つ野営地へ戻って行った。


『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第十夜:大つごもり
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自慢の逸品
余りのかわゆさに飾らずにはいられない
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