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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年09月23日 (Sat)
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2009年11月28日 (Sat)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻く人々の物語』


第三夜:偽の島と蝶の乙女



────クロノス・ゲート
人々に未確認生命体A、と呼ばれる異形は膨大な魔力を以って時空間を歪め、その捩れに哀れな犠牲者を引き擦り込む。同じ異形の体を持つフレグランスにとっても、その技に巻き込まれれば四肢を引き裂かれるような圧に耐える事が精一杯であった。

その事に思い至ったのは、既に己とその後を追って現れた二人の男を眩い光が飲み込んだ後の事。
生身の人間の柔らかな肉や脆い骨が無事に済むだろうか。

「……っ!! いけない、このままじゃ……!」

旅の道連れが出来たなどと悠長に考えている場合ではなかった。フレグランスは光が作り出す隧道の中、出口を求めてもがいた。
鋭い爪の生えた腕を伸ばし、掴まるものがないかと探す指先に触れるものはなく、踏み締めようと踏ん張る踵が捉えるべき地面も消え失せている。
江戸の街から切り離された体が、鋭い風のように吹き付ける魔力の奔流に押し流されようとしたその刹那、視界の隅に光を遮る影が横切った。

【招待状】

そう記された封筒がフレグランスの目の高さを、嵐の海を往く小船のように、ひらひらと漂っていたのだ。
訝んだり、何かを思考している暇は無かった。──後付けでなら、その文言に運命を感じたのだなどと言う事も出来るだろう。ただその瞬間は無我の内に、名も知らぬ二人の体を掴んでその招待状へ手を伸ばした。



――――――――そして、三人は島に居た。
梢を伸ばした木々の合間には青い空が広がり、傾きかけた陽が尚強い光を投げ掛けている。
鬱蒼と生い茂る草木と土の香りは、江戸の……増してや東京の街中とは比べるべくもなく色濃く、吹き渡る風に混じる潮の気配に海の近い事を知る。

頭上高く飛ぶ鳥が呼び交わす鳴き声に暫し呆然と立ち尽くすフレグランスの傍らで、声が上がった。
どうやら己が連れて来た男が発した声のようだ。急激な変化に動揺を隠し切れぬ様子ではあるが、どうやら二人とも無事であるらしい。

大きな体躯を屈ませて安堵に溜息を漏らしたフレグランスは、ふと何者かの視線が注がれている事に気付いてのろのろと顔を上げた。

「神様……!」

其処には、鮮やかな着物に身を包んだ少女が立っていた。
一瞬、まだ自分達は江戸時代に居るのだろうかと言う疑念が過ぎりはしたが、よくよく見遣れば江戸で出会った二人のものとは明らかに時代が違う。レースの飾り襟のついた羽織、胸元に飾られたブローチ、ブーツ。
そして耳元に生きた蝶を留まらせた、ある意味異形──ただしそれは、とても可憐な──の少女は大きな眼をフレグランスへ注いでいる。

「か、神様?」

視線の延長線上に何か別のものでも見えるのかと振り向いて見ても空以外のものはない。
僕?と己の鼻先を指差して見れば、彼女はこくこくと頷きを返すではないか。

神扱い?

そう言えば東京に居た頃、他の未確認生命体と戦う己の姿をネット上に上げて「ネ申」と盛んに持ち上げていた者も居たようだった──それと同数かそれ以上 に、フレグランスもまた同類たちと同じく危険な犯罪者と見做す意見もあったわけだが──彼女もそんな者の一人なのだろうか。

「そっか、まあ、いいや。ところで、名前はなんていうんだい?可愛いなぁ」

「さなぎです。下井丸、さなぎ。」

「僕は未確認生命体F、人呼んで、フレグランスだよ!」

耳に入った問いに反射的に胸を張り答えれば、顰め面をした男が盛大に溜息をついた。

「貴様には…まだ何も聞いとらん………」

ツッコミ?ツッコミだよね。ボケとツッコミって言うのは人間の好むコミュニケーションの形なんだよね、なんだやっぱりこの人、僕の友達になりたいんだ───フレグランスの都合の良い思考は、幸いにも苦労性の同心に聴こえる事はなかった。



「ところで、ここって何。あれ何?穴?トンネル?遺跡?遺跡なの?
遺跡で皆何してんの? え?魔法陣?」

武蔵景元、樺山千仭と名乗った男達とさなぎは、そのまま同行を決めたようだ。
勝手に三人にくっついて行く事を決め込んでいたフレグランスは、彼らから離れ、周囲に集まる人々の間をうろちょろと歩きまわっていた。
五月蝿そうに追い払われもしたが、親切に答えてくれる者も居る。
がらくたとしか思えぬものを売り付けようとする者、探索の供を求める者等で次第にごった返す遺跡外の光景を見て回った後に、いくつかの情報を手に入れる事が出来た。


ひとつ、ここは偽島と呼ばれる島。
ひとつ、ここには宝玉が隠された遺跡がある。
ひとつ、宝玉を手にしたものは望むものを手に入れる事が出来る。


この島を脱するだけであれば、船などを用立てれば事足りるだろう。
然しそれではきっと景元と千仭の二人を江戸時代へ戻す事は出来まい───再び未確認生命体Aが現れ、親切にも二人を送り返してくれるなどと言う希望的観測は抱けそうにもない以上、この島に眠る宝玉とやらを求めるしかないのではないだろうか。
そう結論付けて、フレグランスは三人の元へ早足で引き返した。


未確認生命体F「ねえ聞いた?この島、お宝が眠ってるんだってさ!かげもっちゃん、ちひろん、さなぎちゃんと僕、四人でお宝探ししようよ!」


余りにもセンスの無い渾名で呼ばれた景元が絶句するのにも構わず、フレグランスは皆の手を引き、背を押して遺跡の入り口へと向かったのだった。


「あ、あの……、神様、私、あの……」

「その神様ってのはやめようよさなぎちゃん、僕の事はフレグランス、と呼びたまえ!」

戸惑い勝ちに此方を見上げる少女に、に、と笑って見せる───つもり。口元に覗いたのは鋭い牙のように並んだ歯列であったが。少女は「あの」「その」ともの言いたげに何度も躊躇い、口ごもる様子を見せていたが、やがて小さく頷いた。

こうして怪人フレグランスの探索行は幕を開けたのだった。


『そしてその日、彼らは部隊名を決めたようだよ。その時の騒動は、また別の話(E№415の日記へ)』
『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第四夜:襲い来る獣と幼女の涙

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自慢の逸品
余りのかわゆさに飾らずにはいられない
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