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偽島に生息する未確認生命体F:フレグランスの記録帳
2017年09月23日 (Sat)
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2010年03月16日 (Tue)

『ティムティム?』
【ブワセック!】

『お話を始めよう。これは偽の島に辿り着いた、ある怪人と、彼を取り巻 く人々の物語』


第二十夜:傀儡


その地はただ深い闇に満たされていた。その他には天も無く地も無い、唯一の例外を除いてただただ虚ろに口を開ける空間を黒の帳と静寂が埋めてい る。
一筋、暗闇の世界を照らすただ一つの光は彼の地に佇む女の体から発せられており、その灯火に集うが如く無数の闇色の蝶が女の周囲を舞ってい た。

「どう言う事なの」

苛烈な怒りがしじまを震わせる。
この世界を照らす光である、彼女──ベラは、赤い唇 を歪めていた。
たおやかな白い手には一匹の黒蝶──否、彼女の光に照らされたそれは、鈍く青色に光っていた。その大ぶりの翅を鋭く伸びた爪の先 で捻りながら引き裂いてやる。蝶はくぐもった悲鳴を上げて女の手の内でばたばたと醜く身を捩った。

「お許し、………下、さい……」

痛みに歪む男の声が請うたが、ベラは忌々しげに秀麗な眉を顰めただけだった。
はらわたが煮え返るとはこの事──男は己の命に背いたのだ。神に等 しき存在である筈の己の命に。

「そんな言葉を聞きたいのではないわ。
お前の妹を依代として私に捧げるよう、命じた筈」

投げ捨てるように、女は蝶を虚空に離した。
翅を傷付けられた蝶は飛ぶ事も出来ずにもがき、その内に青白く酷く痩せこけた男の姿となって女の足元 に萎れるように倒れ込んだ。

病みやつれた肌には、下井丸さなぎの前に現れる際の健やかであった時の輝くばかりの張りはない。
落ち窪んだ眼窩、深く刻まれた隈は彼の歳を十も年上に見せ、痛々しく骨の浮き上がった腕はまるで老人のようだ。

「っ………、お許し下さ い、妹はまだ年若く、姫のお力をお受けするには未熟にて、」

許しを請う男の指先を悋気のままに踏み締めた。言い訳など聞く必要も無い。 己が決めたのなら、彼らはそれに従う他無いのだから。
健康であった頃の男と良く似た目元を細めて、ふと哂う。

男の瞳からは既 に己に逆らう気概は消え失せ、恭順を示すように女の華奢な足元に額を擦り付けている。
少しつま先を持ち上げて促してやれば、震える顎を持ち上げ てその指先に口付けて来た。

「それでいいのよ」

蹲る青年の上に覆いかぶさるようにしゃがみ、その背を抱いてやった。
よしよし、と犬の子でも愛でるようにして撫でてやりながら、その耳元に「次は無い」と言い渡す。
力なく項垂れる青年の姿は、ベラの掌が触れた所 からまるで枯れ木が乾いた地に落ちた雨粒を吸い上げるように瑞々しさを取り戻していた。気に入りの頬の形、気に入りの眉、気に入りの唇───それらを満足 げに指先で辿って、掻き抱く。

痛みを堪えるように青年の喉が鳴ったが、ベラには関わりの無い事だった。



「さなぎちゃんに、嫌われちゃった……」

大きな図体は遺跡外の人ごみの中では邪魔にしかならない。ぐすん、と鼻を啜りながらフレグラ ンスはとぼとぼと歩いていた。
手合せの最中、同類の女の施した結界──と言う程高度なものではなかったのかも知れないが、初めて出来た友人と 慕っていた少女に向けられた刃は動揺を誘い、簡易な罠にも抗う力を失わせた──に阻まれ、思うように力を振るえず、パニックになって仲間の元から逃げ出し て来たのだ。

呆然としていた怪人は、強い衝撃で我に返った。
だらだらと歩く怪人に行く手を阻まれた探索者の一人が、腹いせに 突き飛ばすようにして体を割り入れて来たのだ。
はじき出されるようによろめいて、道端に外れ出た。

「皆、どこ行っちゃった の……」

其処は、皆と相談していた行き先とは別の魔法陣へと向かう道。
怪人は気付く事なく、また糸の切れた操り人形のような 危うい歩調で人の流れの脇をふらふらと歩き出した。


『はつかねずみがやって来たよ、今夜のお話はこれでお終い。』


次回──第二十一夜:右手に宿りし黒龍が疼く時

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余りのかわゆさに飾らずにはいられない
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